熟年からの生き方を考える時代?村上龍ドラマ『55歳からのハローライフ』 | やぎおインフォ  
   
               
   

熟年からの生き方を考える時代?村上龍ドラマ『55歳からのハローライフ』

NHKで放映された村上龍原作のドラマ『55歳からのハローライフ』。NHKのドラマは総じてクオリティが高くて、このドラマもまた見応えのあるものに仕上がっていました。

http://www.nhk.or.jp/dodra/hellolife/

原作はこちら。

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村上龍の著作で追う時代の流れ

なぜ今「55歳」なんでしょうか。まあ、正確に言えば、原作の出た2012年、なぜ「55歳」がテーマとして選ばれたのか、ですが。それが気になったので、ざっくりと村上龍の作品をいくつか、発表順に並べてみました。

1976年『限りなく透明に近いブルー』
1980年『コインロッカー・ベイビーズ』
1996年『ラブ&ポップ トパーズII』
2000年『希望の国のエクソダス』
2003年『13歳からのハローワーク』
2012年『55歳からのハローライフ』

多作な作家ですので、かなり恣意的なピックアップになっている点、ご容赦ください。

さて、この流れを見て、どう思いますか? 村上龍は、その時々で、テーマに据えるジェネレーションを意図的に選択してきた、ということが容易に想像できます。たとえば、90~ゼロ年代は、ジュブナイルにスポットを当てた作品に代表作が多い。それと対をなすように、70~80年代は青年、そして現代(2010年代)は熟年層です。

終身雇用が壊れたせいで、会社勤め人は年を重ねてからはしごを外されることが珍しくなくなりました。会社に寄りかかる生き方は将来への不安をかきたてるようになり、「でも何ができる」「何もできない」「時代が悪い」と、年齢を理由にした諦観に帰結させるようになります。実際に会社を追われた人にしても、後悔や恨みが心を捉えて右往左往する。そんな時に助けてくれるのは、やっぱり人で、しかも仕事とは無関係の、配偶者、趣味の仲間、同級生。

これは本作『55歳からのハローライフ』の要旨でもあります。このことを踏まえると、いかに会社というシステムがその人の(金銭面以外の)生きるモチベーションとして機能しなくなってきているかを痛感させられます。ぼくは、うまく言葉にできませんが、『希望の国のエクソダス』で主人公が主張した「この国には何でもある。だが、希望だけがない」の頃とは、やはり時代が変わったのだなと思います。なんというか、「解体がさらに進んだ世界」になった、という印象です。

少し別の見方をすることもできます。70~80年代、2010年代では、村上龍本人の年齢と作品で扱っている世代が近くて、小説を書くアプローチが他と異なっているという想像です。村上龍デビュー作『限りなく透明に近いブルー』からの数年と、ここで話題にしている『55歳からのハローライフ』は、想像力よりも実体験、自分への問いかけを重視した小説の書き方になっているのかもしれない、と思ったのです。

つらつらと書き連ねてしまいましたが、ここで書いたことは、あくまで想像にすぎません。機会があればぜひ村上龍のコアなファンの方に話をうかがってみたいです。

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